ポジショントレードを考える_その3

前回は、β値の算出方法と、その意味を解説しました。

今回は、その算出したβ値を用いてポジションのリスクヘッジを行う方法について考えます。

(この記事は「理論上の話」ではなく、あくまで実践で用いることを念頭に置いています。)

 

βニュートラルポジションを組成する

まずは、前回の記事で用いた<4523エーザイ>と<2786サッポロドラッグ>の2銘柄ポートフォリオを組み、実際にポジションのβリスクをヘッジしてみましょう。

 

まずはエーザイのヘッジ量を求めてみましょう。

2016-01-11 9-53-54

前回の記事に書いたように、TOPIXが1%下落した日には、エーザイは1.13%下落する傾向にあります。

この下方向へのマーケット感応分を相殺すれば、理論上はβニュートラルになるわけですね。

というわけで、エーザイを100万円買うならば、TOPIXを113万円売ればβニュートラルです。

 

同様に、サッポロドラッグのヘッジ量も求めます。

2016-01-11 9-54-57

TOPIXが1%下落した日には、サッポロドラッグは0.43%下落する傾向にあります。

サッポロドラッグを100万円買うならば、TPOIXを43万円売ればβニュートラルになるわけですね。

 

では、エーザイとサッポロドラッグを各100万円で、2銘柄ポートフォリオを組みましょう。

これは先に計算したヘッジ金額を合計すればいいわけですから、ヘッジ金額は<エーザイ分113万円>と<サッポロドラッグ分43万円>を合計した156万円(TOPIXショート)ですね。

まとめると、

・エーザイ_ロング_100万円

・サッポロドラッグ_ロング_100万円

・TOPIX_ショート_156万円

これが、マーケット感応度を相殺した、βヘッジポジションという事になるわけです。

株数や金額が増えようとも、計算方法は同様。

これで相場が下げても、びくともしないポートフォリオの出来上がりです!

 

(得もしません!)

 

(金利、手数料、スリッページ分が毎日減っていきます!!)

 

イベントドリブンに応用する

「利益の源泉となるネタ」が、ここで必要となります。

例えば、東証1部昇格銘柄のTOPIXリバランスに関わるアルファの源泉(アノマリー)があります。

このアノマリーは強力な超過収益(バックテスト上では)となっていたので、金利や手数料が多少かかろうと、自信を持って勝負に出れるわけですね。

ただし、このネタでポジションを組もう!と思っても、それらの銘柄群はセクターが異なるため、挙動がバラバラです。

さらに言えば、TOPIXリバランス以外のイベントドリブンにも同時に参加することが当然ありえます(日常茶飯事)。

その際に、このβニュートラルのアプローチを知っていると、魑魅魍魎の銘柄群と向き合いながらも、地に足を着いて勝負することができるはずです。

 

完璧なβヘッジは可能か

前回の記事で解説した通り、β値は過去の株価から算出されます。

1~2年の長期のβ値というのは変動しにくいものではありますが、「βリスクをヘッジする」という行為は、株価の予測をすることに限りなく等しい行為だということは覚えておく必要があります。

「予測」であるがゆえに、完璧にβリスクをヘッジするということは不可能と言っていいでしょう。

ただし、「株価の上下を当てるゲーム」と「β値を当てるゲーム」では、圧倒的に後者の方が簡単なゲームです。

株はボクシングと違って、偏差値80オーバーの怪物と対戦する必要のない世界ですから、「ゲームの難易度をいかに下げるか」というゲームだと割り切るのもありなのではないでしょうか。

 

余談

さて、イベントトレーダーとして、様々なイベントを検証していて思うことがあります。

例えば、先に挙げた「TOPIXリバランス」イベントをバックテストしてみると、対象の個別株をハーフヘッジすると利益が安定します。

個別株を100万円買うなら、TOPIXを50万円売るのが、もっとも損益が安定するんですよね。

長期で見れば、ヘッジは0~100%の範囲ならいくらでも利益になる計算なのですが、50%程度が最も安定する。

この「50%」って値はなんなんだ?という疑問を、私は長らく抱えていました。

 

私がこの疑問に出した答えは、

「たぶん、対象銘柄のβ値の平均が0.5に近いからではないか」

というものです。

面倒くさがって計算すらしてませんが(笑)

 

まあ、私の感覚的な話は大した価値がないので聞き流してもらって良いのですが、この「バックテスト上の最適なヘッジ量と、超過収益が期待できるヘッジ量の範囲」は必ず知っておく必要があります。

ヘッジ量(β値)を完璧に当てるゲームに失敗したとしても、予測したヘッジ量が「バックテスト上で超過収益が期待できるヘッジ量の範囲内」であるならば、期待値はプラスなんです。

予測を外しても勝てるゲーム、そういうものだけに参加するのが理想ですね。

 

追記

前回の記事でコメントをくださった方の他にも、個別で連絡をくださった方が数名いらっしゃいます。

拙い内容の記事ですが、私の話しの先まで理解してくださってるようで、どっちが先生役なのか分かりませんね(笑)

 

もう少しヘッジやβ値について書きたいことがあるので、まだこの話は続く!

 

5 Responses to “ポジショントレードを考える_その3”

  1. より:

    t値かけてみたりしたらどうなるんですかね?
    思ってもした事ありませんが。

    • miura より:

      みさん、ご無沙汰です!
      t値ですか!?考えたこともなかった。。

      以前、みさんが「β値っていうより、βの変化を見ているよ」とおっしゃっていたのを記憶しているんですが、そんな何気ない言葉が後々自分の金言になったりしています。
      t値ですか。
      ふむふむ…

  2. より:

    よく憶えてましたね笑。どの期間取ろうと足元の動きが必ず含まれるわけですが、それってどうなんだろと思い続け。過去のβの変化パターンはグラフで毎日みている(お見せしたような?)一方でβ出すための散布図も見ていて直感的にt値みているようなもんなのかなと。セクターにしろサイズにしろ何のリスク取っているか意識さえできれば非システム系定性トレーダーはなんとかなります!つまり何をヘッジしたいかわかってるという事なのですが、先物売ることで想定外の銘柄ショートリスク取ってる事もありますから気をつけましょう!

    • miura より:

      みさんの特別課外授業、一言も聞き洩らしませんよー!
      あの日以降、自分のポジのβ値を記録していたので、相場の急落を2~3度記録できました。
      平常時は問題ないのですが、やはり急落時の個別のリスク変化は想定を超えてくるので、みさんのおっしゃるように取得リスクを細分化して、閉じるべきリスクに集中!といった感じでやってます。
      実力ある定性トレーダーの、取得リスクに対する認識力って卓抜したものがありますよね。
      私は大した記憶力ではないので、定量データを用いてリスク認識をアシストしてやらないとついていけません^^;

  3. より:

    追伸ー直近のモデルの中にはレジデュアル・ボラティリティという、ヒストリカルβの回帰計算で得られる残差リターンのボラティリティが含まれているようです。詳細は知りませんが何となく僕のイメージにはあってるような。αとβで説明したのは1960年代後半、90年代に3ファクターモデルを発表してノーベル賞貰ったファーマ&フレンチも一昨年には5ファクターモデル提唱してますからね。日々勉強ですな。

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